2023年8月講座報告 【持続的な社会構築のための流域治水の展開】

去る8月27日日曜日に佐伯市民大学(後期)第三回講座のタイトルは「持続的な社会構築のための流域治水の展開」で、講師に熊本県立大学特別教授の島谷幸宏先生をお招きしました。

以下は、講義の主なポイントです。この講座の内容は、次回9月講座のテーマである景観や、10月講座のテーマである森の保全ともつながっていきます。

 

 

目次

国土変貌によって増える洪水

令和2年7月の熊本県球磨川による豪雨水害は、本流があふれ、支流はあふれなかった。破堤はなく、堤防の上を水があふれだし、これを津波洪水と呼ぶ。河川工学者の高橋裕は、その著書『国土の変貌と水害』(1971岩波書店)で、「洪水の規模は降水量のみによって定まるのではなく(中略)流域の条件(中略)河道の状況によっても大きな影響を受ける。流域や河道は絶えず人為的に変化させられている」と述べているように、現代では都市開発などで舗装面積が増え、道路舗装率は1975年の30%から2000年には98%に増え、これによって水が早く流れる傾向にある。

利根川洪水は明治29年には毎秒3750m2の水量だったのが、近年の洪水では毎秒16500m2と、4倍以上になっている。統計をみると、小さい洪水は減少しているが、大洪水は一向に防げていない。気候変動でさらに豪雨は増えつつある。

 

緑の流域治水

国土はダムや堤防だけでは守れない。

そこで熊本県知事へ「早く流す治水から、ゆっくり流す治水へ」という趣旨の提言を島谷他10人の研究者がすることとなった。

結果として、流域全体の総合力による“緑 の流域治水” を軸に、文科省から研究予算を手に入れ、産学官連携による10年間の地域共創拠点プログラムを始めることとなった。キーワードは参加型・コミュニティ治水・適正技術・次世代育成・美しい風景・豊かな自然など。その責任者として熊本県立大学が設けた特別ポストに入り、日々忙しくしている。

県のパートナーも土木部、環境生活部、教育庁、農林水産部、企業局など多岐多様である。経験から言えることは、川の技術者が(自然や人への)愛があるか否かで、治水はガラッと変わってくる。

 

 

ヤマタノオロチが意味するもの

治水とは水のリスクを減らし、恵みを得ること。ヤマタノオロチのオロチは降地(土石流)ともいえるし、スサノオのオロチ退治は治水であり、嫁にしたクシナダヒメは日本書紀では稲田媛(いなだひめ)ともあり、豊かなコメの恵みを手に入れたとも言える。

 

先人の知恵

稲作の導入と共に河川技術が始まる。水田は水が流れるゆえに持続的に同じ場所でコメが採れる。

昔は木を植えて水害を緩和した。田染の庄も高千穂も、中小河川沿いの微高地に居を構えて水害を逃れていた。

先人は山―田―海のつながりを良くわかっていた。

 

 

イギリスモデルから

イギリスでは雨庭、田んぼダム、遊水池、負耕作地を利用した湿地再生などがさかん。つまり治水は土が必要だが、近代化では土をコンクリで覆ってしまっている。

雨庭づくりは簡単で、土の浸透能力を増やす効果がある。森林保全によって、雨は土に到達する前に10~20%が蒸発する。洪水の波をつぶすというのは、頂点を低くすることであり、川幅を広げること。リーキーダムとは、渓流に木を何本か渡して流れを遅くすること。

 

 

地域共創型集落IoT

最後に紹介する治水技術は、地域共創型拠点プログラムの一つで、とても面白い。集落内で洪水、冠水などのリスクのある場所を住民がワークショップを通して確定し、カメラを設置する。IoT(Internet of Things)の技術で、安価なスターリンクのインターネットサービスなどを利用しながら、住民がカメラを通して、リスクを監視、管理していく仕組み。

簡単に修理ができ、安く実践でき、地域住民の協力体制ができてくることで持続可能になる。このように、住民が楽しく参加し、適正技術を使って安価に運営できるしくみが大事である。

 

オンライン講座 230827 持続的な社会構築のための流域治水の展開

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