2023年9月講座報告 【景観の昔と今から未来を考える】

オンライン講座 230917 景観の昔と今から未来を考える

 

 

目次

人口減少と観光

今、大都会の人口は増え続け、地方の人口は減り続けている。徳島県東祖谷の名頃集落や、長崎県の小値賀町なども50%以上が65歳以上の限界集落だが、ここ10年ぐらい観光産業でinboundが増えてきて、村を救ってくれるようになった。目指すべきは持続可能な観光。人口減少は日本だけでなく、世界中の先進国の問題。イタリアのトスカーナやイギリスのレイクカントリー地方なども観光で不動産価値が上がり、外部から来る人で村が維持できるようになり楽しく明るい雰囲気に。熊本の黒川温泉なども落ち着いた色で景観をまとめ、全国から客が来るようになった。ヨーロッパの古い町の人々にはプライドがあり、自分の街を美しく残したいと思っているから街並みが美しい。ところが京都の人は古臭くてつまらない京都から現代的都市へと脱皮をめざしているので景観がごちゃ混ぜだ。

 

 

 

モニュメントと土建国家

美しい自然を背景に奇妙なモニュメントを建てる日本人(対馬の豊玉地区公民館や岡山県奈義町の現代美術館など)。日本では公共工事で地方を支える目的なので、ニーズがないのに予算を組み、不必要な工事をし、道路沿いの山を削った側面に奇妙なコンクリートの壁を作り続けている。同じ高速道路でも、ドイツなどは自然と調査した美しいデザイン。「犬と鬼」の意味は、身近な生き物の犬を描くのは実は難しく、創造の産物の鬼はグロテスクで案外描きやすいということ。日本は鬼を描くのが得意なのだ。人口減少の町がもし普通のコンクリの景観を選ぶとすれば暗い未来が待っている。もし古い町並みを残すなら、観光産業が起き、若い人が移住してくる。移住者を取り合う競争では、美しい町が勝つ。

 

 

不便と電線

日本人にとって「便利」が一種の宗教に近い。広島県の大三島に有名な大山祇神社があり、外国人観光客も来るが、門前町からの長い参道が不便で、神社近くに駐車場を作ったとたん、門前町は人が来なくなり死んでしまった。海外の観光地は車をシャットアウトするが、日本は逆。イギリスのストーンヘンジはビジターセンターから2km歩かなくてはならないが、人が歩けば店ははやる。京都四条通も4車線を2車線にして歩道を広くしたら店も繁盛し、さして車の渋滞もないことが分かった。日本の電線も景観を壊す。京都姉小路の電線もひどい。電線の地中化はロンドン100%、ジャカルタ35%、東京8%、日本全体1%。私は公共工事に反対し得いるわけではなく、それに依存することから色々な問題が起こると考えている。

 

 

看板やスローガン

京都の紅葉の名所、東福寺前にも重複する看板が乱立する。神社の鳥居の内側は聖なる場所であり、伊勢神宮の中も素晴らしいが、外の伊勢市観光案内書の看板の乱立は目も当てられない。今はスマホで場所はわかるのに、何故場所を示す看板をたてまくるのか。ヨーロッパでは街中や教会の前などに看板はない。さらに自治体のスローガンの看板も多い。「消費税完納の町」の看板の意味は観光客にとって謎だ。由布院駅前の大分銀行の高く赤い看板をみてがっかりだったが、最近看板の色を抑えて位置を低くして改善した。オクスフォード大学の芝生の上には手のひらほどの小さい看板があり「芝生を歩かないでください」と書いている。

 

町と木

高松市には全国的にも珍しい楠の街路樹があり、美しい。しかし、最近は街路樹の落葉が汚いとの苦情も多く、丸ごと幹や枝を切り落としたみじめな街路樹が増えている。一方シンガポール空港からの高速沿いには見事な熱帯の街路樹が植えられて美しい。

 

 

祖谷と古民家再生

祖谷との出会いは大学時代の全国一周ヒッチハイクで。霧の立ち込める谷山と茅葺の屋根の民家が神秘的で魅せられた。祖谷は平地がなく、平家の落人らは山の斜面に集落をつくったという。そこで300年前に建てられた茅葺民家を1973年に購入。篪庵(ちいおり)と名付け、板張りの漆塗りの床を残し、後に観光用に宿泊できるようにした。アクセスは不便、無名で大邸宅でもないのに、1990年から2010年までに3万人が利用し、2010年にはミシュランの一つ星も獲得。それは「何でもない」魅力のおかげ。京都の美山町も茅葺の里として古い家の保存に力を入れ人気観光地に。古民家は観光資源だ。長崎五島列島の小値賀プロジェクトも7軒の古民家の良い部分を残しながら、現代人にマッチした生活ができるように再生した。つまり、古い家を今に引っ張らないと生きた家にならない。祖谷でも17軒の江戸時代の民家に床暖房を入れ、壁と天井に断熱材を入れ、ペアガラスのドアや窓を使い、テーブルと椅子のダイニングを備えている。これまで全国で40数軒の古民家を改修してきた。

 

観光は量より質

外国人にとって日本は世界一行きたい国。やり方次第でオーバーツーリズムを克服できる。ネット予約や人数制限などの規制だ。日本は数や量に価値を置いてきたが、これからは中身、質の時代。観光の団体が白川郷に滞在する時間は平均40分。110円の自販機の飲み物を飲んで帰っていくだけ。地元への経済的還元が少ない観光をゼロドルツーリズムと呼ぶ。祖谷の古民家には年3000人宿泊し、お金は地元に落ちる。数は少ないが中身が充実している。

 

オンライン講座 230917 景観の昔と今から未来を考える

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