佐伯市民大学「令和四教堂」最終講座発表会

 

目次

第一部 グループ研究発表

去る9月15日(日)午後2時から5時半まで、さいき城山桜ホール小ホールで佐伯市民大学「令和四教堂」最終講座が実施されました。令和3年12月から開始した講座も前期、後期合わせて今年9月で29回となり、今回を持って3年間の学びが修了となります。
これまでに12名の講師から多岐の専門分野にわたって学んだことの集大成として、本年1月から受講生自身がテーマを見つけ、グループ研究プロジェクトを生み出していく過程をワークショップ形式で開始し、3月に5つのプロジェクトに集約されました。4月からはグループ研究プロジェクト主導で研究調査の実施や事業計画の作成と、最終講座の発表会の準備に力を入れてきました。最終講座で発表する受講生は21名(2名欠席)、観客は20名、メディア関係者は3名、地元学の会スタッフは12名(3名欠席)、講評をいただくゲスト5名を含めて61名が会場を埋め、熱気が漂っていました。
ゲストの方々は日本文理大学名誉教授の杉浦嘉雄氏や東京大学名誉教授味埜俊氏をはじめ、佐伯市長田中利明氏、佐伯市教育長宗岡功氏、佐伯市民大学学長村上憲郎氏の5名で、発表後に講評を頂きました。以下、グループ研究プロジェクト発表(発表順)の要約です(各事業費用の概算は省略したのでご了承ください)。

 

「夢見る学校」実現プロジェクト~目指せ!夢見る学校~

(最初に映画「夢見る小学校~完結編~」の90秒予告動画を鑑賞)このグループは現役教員や元教員を含む、多様な職や経歴を持つ7名のメンバーで構成されています。全国で不登校の小中学生がほぼ30万人に増えている今、メンバーは、子どものニーズに合わせた多様な教育の選択肢があってもよいのではないかという問いを共有し、オオタ・ヴィン監督の映画「夢見る小学校~完結編~」を見て、佐伯市にも、この映画で紹介されたような、より自由で柔軟な教育を実施する学校を増やしたいという思いでこのプロジェクトを創りました。
まず、映画で紹介された、全国展開している学校法人「きのくに子どもの村学園」の一つである、長崎の「東そのぎ子どもの村学校」や、大分県玖珠町で今年4月に開校したばかりの「学びの多様化学校」を視察し、子ども主体で探求型の学びが子どもの潜在可能性を引き出し、子ども達が生き生きと学校生活を楽しんでいる様子を目の当たりに見ました。また、佐伯市で35年前に保護者や先生たちと創設した「しろやま共同保育園」で実践されている海釣りや田植えなどの自然体験学習を見学し、子どもを自然の中で遊ばせることが「生きる力」をつける鍵であることを実感しました。
このグループが目指したいのは子どもがやりたいことができ、自分の事は自分で決め、自然体験で失敗から学び、オーガニックな給食で体を創り、少人数・異年齢の集団で学ぶ個別最適型で協働的な教育です。そうした教育実践をしている「きのくに子どもの村学園」は文科省に正式に認可されており、さらに、この学校で子どもを学ばせたいと思う親が移住してくることで、地域活性化の一端も担っているのです。
このように自由で柔軟な教育実践が可能であることをもっと多くの佐伯市のお子さんや保護者の方々に知ってもらい、佐伯市での新しい教育の普及を支援していただくために、映画「夢見る小学校~完結編」を上映して、鑑賞してもらうことをプロジェクトの最初の目標に設定しました。上映会は11月24日(日)に佐伯市の「和楽」大研修室で実施します。佐伯市教育委員会との共催で、チケットも「まな美」の1階で10月1日から販売していただきます。上映後は映画に出演された文化人類学者の辻信一先生をお招きし、教育長や現役の先生方と会場の参加者との「お話し会」も企画しています。学校関係者や多くの保護者の方々、お子さんに映画を見ていただきたいと願っています。

 

 

「市民食堂」プロジェクト~食と交流支援プラットフォーム~

このグループは4名で研究プロジェクトと行いました。まず、佐伯市内の現状と地方都市が抱える多くの課題(「空き家問題」や「買い物難民」「労働力不足」など)を整理する中で、「単身高齢者の増加」という項目に着目することとしました。佐伯市の今年8月時点の総人口は64,778人、32,830世帯です。2050年には総人口は推計で今の半分強(約36,000人)となり、世代別人口構成では75歳以上のグループが将来的に3割強を占めることになります。また、現在65歳以上の高齢者世帯は全世帯の44%で、そのうちの6割が単身世帯です。
そこで人口減少を悲観的に捉えるのではなく、「年を重ねても、佐伯で健康的で幸せな人生を送るにはどうしたらいいか」を考察していくこととし、まずは単身高齢者の人物像を探るために生成系AIのchatGTPを通して、典型的な75歳で一人暮らしの男性(ペルソナA)さんのプロフィールを作成しました。その中の気になる項目として、「近所の人とのつながりが薄く、孤独感を感じることが多い」ということが浮かび上がってきました。また、ハーバード大学が80年間に渡り同一家族の2世代1300人以上を追跡研究をしたところ、健康で幸せな人生を送るためには「友好的な人間関係を育むこと」が必要であるという報告を出しています。これらのことから、健康的で幸せな人生を送るために、人と人が交流を生む場所が必要であり、その絆を生む場所として「同じ釜の飯を食う仲間」というフレーズにみる食を通した場づくりが大事なのではないかと考えました。
そこで「市民食堂を核とした食と交流支援プラットフォームの構築」を提案したいと思います。市民食堂の4つの魅力として①管理栄養士開発のレシピや、企業の福利厚生の経費処理ができる社員食堂の機能も持たせる「健康食堂」、②店の売れ残りや家庭菜園の食材を利用し、食堂のお手伝いをして食事を割引する「安さの仕組み」、➂趣味や仲間を募集したり、困りごとを持つ人を解決できる人とつなぐ「マッチング」、④車・自転車・工具などのシェアや、あげます/欲しいです掲示板などの「アイテムシェアリング」を提案します。
プロジェクトのロードマップでは、現在は「設計(仮説)」段階で、その後「調査研究」、「ネットワーク構築とシステム開発」を経て「市民食堂開設」まで2年半かけて実現する計画です。今後は調査研究として、ひとり暮らし世帯を対象に「食事状況」「毎月の食費」等、個々の現状問題とニーズをアンケート調査する予定です。また、桜ホールキッチンコートで「おため市民食堂・リバサパ佐伯」として、ニーズやサービス検証、レシピ開発、ネットワーク調査なども今秋にしてみたいと考えているので、参加や寄付を募集します。市民食堂が開設されれば、孤独だったペルソナAさんにも新たな人間関係が生まれ、健康で幸せな日々が待っていることでしょう。

 

 

「城山アドベンチャーズ」~佐伯城址(城山)未来の活用について~

このグループは自伐型林業や学校教職員、ネイチャーガイドなどの多様な職種を持つ7人で構成されています。
佐伯城山は1606年に毛利高政が築城を完成し、現存する城の石垣が昨年国指定遺跡となった歴史ある山であるとともに、佐伯市街中心に位置していることもあり、毎年58000人の市民が訪れる憩いの場であり、周りに多くの小、中、高等学校が集中しています。つまり、城山の魅力や価値とは「自然・教育・歴史」ですが、佐伯には既に歴史資料館もあることから、このグループは「自然」と「教育」に着目して研究してみました。
城山には希少な「オオイタサンショウウオ」が生息し、日本の原風景の象徴でもある「ムササビ」や「シイ」「カシ」などの豊かな照葉樹林の森が育くまれています。そして、城山の史跡も自然も教育プログラムには最適の要素です。学びとは、単に見るだけでなく、体験することが一番の想いとなり重要なのです。
実は当初のプロジェクトの構想は旧佐伯幼稚園の建物を活用し、城山の自然や環境に特化したビジターセンターをつくることでした。そこで、市役所の担当部署をあたってみましたが、幼稚園は教育総務課、城址・史跡は社会教育課、城山歴史公園としては都市計画課、看板の製作やPRは観光課と、城山に関する役割が分散しており、なかなか話が進みませんでした。また、これまで地域振興課が担当だった「佐伯城山に関する活用・保存に関する基本方針」は2026年まで有効で、2027~2036年の次の基本方針の作成は社会教育課が担当となり、策定の計画を練ることになっています。そこで、城山を複合的に考える、司令塔組織の必要性を感じました。その一例として石垣の景観を良くするための山頂付近の樹木伐採ですが、観光や石垣保全などいくつも目的があり、環境・石垣保全の配慮についても不明確です。城山の樹木伐採・剪定には「次世代につなぐ」ための長期的な計画が必要だと思います。さらに城山の立て看板や標識など、見やすく、景観を邪魔しない、史跡としての価値や雰囲気作りが大事だと思います。これらのことを踏まえ、様々な分野における城山の活用・保存機能を統合した「城山課」の設立は無理としても、城山の価値は別格で格上げしても良いと考えています。そこで、城山に関する4つの提案をしたいと思います。
2期目の「佐伯城山に関する活用・保存に関する基本方針」を策定するにあたり、関係部署、有識者、民間のメンバーで構成される城山の活用・保存に関する定期的会議を設置。基本方針策定後も市民からの城山案件に長期的に対応できる組織が必要。
子ども達や市民が城山の自然環境を学ぶ場としての佐伯城山ビジターセンターの設置。森の中、巣箱の中にwebカメラを設置してセンターで観察会をし、自然環境や生態系を学んでもらう。候補としては旧佐伯幼稚園か三の丸広場に新設する。
佐伯の子ども達のための城山を活用した自然教育計画の策定。現存する佐伯市総合計画や佐伯学びプラン、佐伯城山に関する活用・保存に関する基本方針と連携して作成してほしい。
城山を守るための整備道の検討。長期的に考えると石垣周辺の定期的な伐採・剪定が必要だが、これまでは人力だった。最小限の重機が入る整備道が必要と考える。
最後に城山周辺の活用や環境を守る整備道の財源をねん出するために、森林環境贈与税が活用できないかを検討していただき、まとめとして、一人でも多くの佐伯市民が城山の未来を考え、想像し、未来の城山を活用していく次世代のために、佐伯城山の教育計画と環境整備を市にご検討願いたい。

 

 

「しゃべり場」プロジェクト~予算0円!で地域貢献~

このグループは8名のメンバーから構成されています。私たちは魅力的な佐伯の街づくりを多世代で話し合える場づくりを目指しています。
現在、どういった場づくりのための福祉サービスがあるのか、佐伯市社会福祉協議会で調べてみました。2024年3月時点で「ふれあい・いきいきサロン」は145か所、自主型サロンが52か所、支援型サロンが93か所あるという事でした。また、市の高齢者福祉課では「さいきの茶の間」を60か所に設けていました。その他、佐伯市内の「すまいるハウス」や、竹田市の「みんなのいえカラフル」の取組も視察しました。「すまいるハウス」は自主型サロンで、ほぼ固定メンバーで女性が主ですが、地元以外の方も参加しています。「みんなのいえカラフル」では、赤ちゃんから高齢者まで出入り自由で多世代の居場所となっています。これらの調査で、佐伯市には多世代交流の場とまちづくりについて話せる場がないことを再認識しました。
実は佐伯市には「ワンコインしゃべり場」という活動が2007年から2020年まで13年間も継続していた事実があります。退職者を中心に月一回のペースで5人から10人、多いときは20人集まることもあり。ここからまちづくりグループが生まれました。しかし若者を呼び込めることができず、コロナ禍で休止して以来、活動が復活できませんでした。この「しゃべり場」を引き継ぐ、まちづくりを話し合う場を復活させ継続したいと思いました。
「しゃべり場」の目的は①まちづくりについて多世代の声を聞く場をつくり、②しゃべり場のメンバーの思いに共感し、協働する仲間・リーダーを発掘することです。その計画の概要は①月一回、第2か第3土曜日の午後2時から90分間開催、②場所は桜ホールの交流スペースで、➂参加費は無料、④対象は高校生以上で、⑤最大30名までで、⑥手法はワールドカフェ形式となります。ここでは年齢性別をいとわず、老若男女がつどう佐伯市の縮図をつくりたいのです。募集手段は市報やSNSで、申し込みはQRコードや電話でも可能とします。
ワールドカフェとは、カフェのような雰囲気で、少人数でテーブルで自由に対話したことを模造紙に書き留め、時間を決めてメンバーを入れ替えながら、数ラウンド繰り返して対話を広げ、参加者全員の意見や知識を集められるワークショップのことです。これなら若者もアイデアを出しやすく、楽しく話し合いができます。この手法の長所は皆のアイデアが可視化され、新たな気づきや発見が生まれ、考えが深まり、共通の関心を持つ仲間やネットワークが生まれることです。短所としては、各ラウンドが短時間で、話し合いが深まりにくい事です。その対策として①模造紙に書いたアイデアの中から、スタッフや参加者が考えを深めたいものは、次回以降のテーマに採用し、②各ラウンドを20分と長めに設定します。
毎回テーマを決めて開催しますが、第1回は「こんなのあったらいいな!!みんなに話したいまちづくりのアイデア」がテーマで、2回以降も多様なテーマを用意しています。そして模造紙に記録したことを議事録にし、佐伯市コミュニティ創生課へ提出する予定です。そして、この活動から生まれた新たな活動を行うグループを支援していきたいと願っています。

 

「僻南のまほろばを歩く旅」プロジェクト

このグループは4名のメンバーから構成されています。このプロジェクトを作るにあたって、畑野浦、色利、地松浦の地元関係者、佐伯史談会、教育委員会、観光ものづくり佐伯、農林水産部林業課、南部振興局、(一社)石積み学校にご相談させていただきました。
佐伯市は九州一の広大な空間を所有し、森林率は県下一の87%ですが、林業生産額は全体の1,2%に留まっています。広大な山々には古道と歴史文化が眠り、豊かな物産が埋もれています。ここに歩く道を拓き、ウェルネスツーリズムを導入し、森林の保健・文化的機能の観点から新しい価値を生じさせる必要があると考えました。→(佐伯の美しい山々の景観を動画で紹介)
 この「僻南のまほろばを歩く旅」事業の目的としては①各地域に「歩く旅」のテーマ(ネーミング)を設定しそこを「歩く旅人」にそこにしかない文化・食・住を提供し、②佐伯市各地域コミュニティの活性化を目指し、➂佐伯市の経済や雇用の持続的発展へつなげたいと考えています。その内容は「古道復元」による多様で多彩な「歩く旅~ウェルネスツーリズム」の提供であり、対象は森林機能や環境保全に強い関心を抱く「歩く旅人」です。
実現方法としては古道の復元は旧インフラの利用なので新規投資は不要です。このルートの維持は地元コミュニティ主導とすることに意義があります。定量効果は観光直接消費による収入増、定性効果としては、各地域コミュニティ活動活性(共通テーマ)、森林資源の保全(地域コミュニティと旅人)。文化財の保全(旅客による見守り)、関連ビジネス拡大(経済波及効果)であり、佐伯市の「7つの創生」に貢献します。
初期計画は2025年までで、①佐伯地方域調査の実施、②初期ルート(鶴見・米水津、畑野浦)の開発(理由として実現性が高く、感動に出会える道であり、地元の協力も見込める)。3つのルートですが、畑野浦は「神話と信仰の旅」、米水津は「海天空の旅」、鶴見は「龍の背に乗る旅」とネーミングしました。この3ルートを畑野浦から鶴御崎までつなげることで、全長26kmの歩く道となります。畑野浦ルートの一部、「お太師様の遊歩道」を歩くプレイベントも6月に実施しました。「龍の背に乗る旅」は国木田独歩も歩いたというしし垣沿いの古道で、ウェルネス体験としては、地球と身体が直接触れ合い癒しを得る健康法であるアーシングを採用し、草鞋をはいて歩く体験を導入します。
企画としては、草鞋で歩く旅の定期イベントで次回は11月の「龍の背に乗る旅」です。また、日本一のしし垣復興ワークショップと各種コンテストを開催します。さらに自然歴史文化の魅力をアピールするコースのPR動画を制作し、各ルートに表示塔の設置をし、QRコードで拡散します。ビジネスとしては「僻南のまほろばを歩く旅」ブランドの確立(各種ビジネスの展開)で、例えば古民家再生・古道の復活・自伐型林業の展開となります。このように、僻南のまほろばを草鞋で歩く旅(ロングトレイルの一環)は世界初の観光ブランドであり、佐伯がウェルネスツーリズムの聖地となるでしょう。
ウェルネスツーリズムは世界のトレンドであり、日本でも環境省・国交省などがロングトレイルの普及で交流・関係人口の拡大を目指しており、大分県はR6年3月に「アドベンチャーツーリズム条例」を制定しています。民間においても、歩くことに特化した観光が急成長しています(Walk Japan,アルクトラベル、YAMAP等旅行会社)。歩く旅ビジネスは世界レベルで2020年に56兆円の市場規模で、2025年には166兆円に成長すると予測されています。
今後中期計画(~2030年)では全15ルートのネットワーク化を軸に①「歩く旅」のブランド化、②各地域コミュニティの活性化、③「歩く旅」の事業会社化、④林業収入・就業数の増加を見込み、長期目標(~2035年)では、「歩く旅」の誘因効果により滞在型リゾート地への飛躍を目指し、①佐伯市の収入増加、②コンパクトシティと各地域の活性の両立といった波及効果を期待しています。
予算と経済効果ですが、初期計画(3ルート)で広報や初期整備費等に800万の予算と、直接経済効果が6~13億円/年、50名/人日、中期計画(15ルート)では、行政支援やボランティア、協賛金、寄付等を資金に、イベント開催料やブランド使用料、広告宣伝量を収入源とします。長期目標では古民家の宿泊施設化や滞在型リゾートホテルの誘致に力を入れ、事業投資を誘発します。結果として、中長期の直接経済効果は41~83億円/年、300名/人日と見込んでいます。大分県の一人当たり観光消費額で計算すると、日帰り旅行では6,372円/人回 が、一泊旅行だと49,602円/人回に増えます。歩く旅を普及すれば宿泊は必須です。
事業課題と対策として、①インフラ整備と管理体制は旧道利用と地域コミュニティの参画、②誘客は広報メディア投資や大分県の既存の歩く客層の取込みを目指し、➂交通手段はレンタサイクル、ボランティア(送迎)、コミュニティバス、定期船(観光船)を活用し、④宿泊施設は農泊(グリーンツーリズム)、民泊、テント泊を活用したいと考えています。
まとめとして、「歩く旅」の普及によって、佐伯市の各地域が地域資源としての森林の維持保全について考えるきっかけとなり、関係人口の拡大も期待出来ます。そのことがコンパクトシティと周辺各地域の活性を両立させ、佐伯は住みたいところ、働きたいところとして魅力を発信することに繋がります。このプロジェクトは「モノ消費からコト消費」へ、「人間中心の地域づくり」への移行を助け、「豊富な諸資源」としての海山川島を活用し、佐伯を「世界を魅了する良質な観光地域」にしていくと信じています。佐伯の未来を切り開くのは森林資源です。

 

第二部 講評

佐伯市教育長 宗岡功氏:「夢見る学校」実現プロジェクト~目指せ!夢見る学校~

大変素晴らしい発表でした。2年半から3年間の学びの成果に心から敬意を表したい。今の子ども達は多感な時期に多様な社会環境の中で過ごし、長期的に思い悩みながらも将来に向けて懸命に生きようとしています。佐伯の子ども達の状況と、今後の事も含めてお話させていただきたい。
まず不登校の統計ですが、発表にもあったように全国では令和3年に24万人、令和4年には30万人と増えており、16歳から64歳の引きこもりの数は令和3年には全国で150万人という状況です。明治5年に学制が交付されてから100年以上経ち、文科省は学習指導要領など改定しながら時代時代に合った資質や能力をつける教育を進めてきました。しかしながら今日、集団活動を基本とした画一的な教育制度が教育の困難さを学校と子供たちに与えていることも否めません。
「夢見る学校」のチームから佐伯市にもこういう教育を実施する学校が欲しいといった提案がありました。一つは探求型学習、つまり子どもの興味や関心に寄せて個人やチームで問いを立てながら教科学習と深く関連させて学ぶ方法です。二つ目は自然の中での体験学習で、グループは玖珠の学びの多様化学校や佐伯の城山共同保育園の実例を挙げていましたが、いずれも個に応じた、子ども主体の運営がなされています。
佐伯の不登校についてですが、大分県全体でも増えています。佐伯市ではコロナ禍以前の状況に戻したいと努力してきました。令和1年の佐伯市の不登校は87人で、全体の1.8%でした。大分県は2,1%、全国は1.9%でした。令和3年に佐伯市はピークを迎え、127人(2.7%)、大分県は2.8%、全国は2.6%でした。令和4年は、佐伯市は116人(2.6%)、大分県は3.1%、全国は3.2%でした。しかし令和5年は、佐伯市は88人(2%)を予測しており、やっとコロナ禍以前のレベルに戻りそうです。全体としても減少傾向にあります。
今後の状況としては、現在佐伯市の小学生は2600人、中学生は1500人で合計4100人ですが、令和5年生まれの子どもが小学校1年になる令和12年には全体で3000人にまで減る予想であり、このままでいくと学校の統廃合は免れません。しかし、統合して大きな学校を作るだけではなく、集団活動になじめない子どもを受け入れる学校も市内に必要です。そこで今年度末には市内どこからでも通えて豊かな自然に恵まれた小規模特認校を導入しようと考えています。玖珠の学びの多様化学校は不登校特例校として、一般には1015時間必要な教科授業をその75%の750時間にでき、残りの250時間を探求や野遊びにあてることができます。しかし小規模特認校にはこの制度はありません。ただ、1015時間の教科の中で、探求的学習を組み込めないか、文科省と話を詰めながら求めていきたい。個に応じたテーマを決め探求できる学習をする点では、「城山アドベンチャーズ」が城山を教育現場にしたいという提案にも通じる部分があります。
さらに、佐伯市は表現教育を昨年度から進めており、生の文化芸術に接する機会を持つだけでなく、自ら主役となって一緒に発表する取り組みもあります。教え込む授業ではなく、子どもたちが思考力、判断力、表現する力を育むように、今年度から授業を変えていきます。学力テストでは取り込めない、非認知能力や自己肯定感を高めて、子どもたちの旺盛な好奇心を育んでいく取り組みを進め、小規模特認校のみならず、通常の学校においても可能な限り探求型学習を導入していければと考えています。
今日の「夢見る学校」の皆さんの提案や研究内容を参考に、佐伯市では教科型と探求型の二刀流の教育をしっかり進めていきたいと思います。最後に「夢見る学校~完結編~」の上映会は佐伯市教育委員会の共催とさせていただきましたので、何でもできることは協力したいと思います。その辺もお約束しながら講評とさせていただきます。

 

日本文理大学名誉教授 杉浦嘉雄氏:「市民食堂」プロジェクト~食と交流支援プラットフォーム~

まず、プレゼンの印象が大きかったです。「現状と課題」から始まり、「考察」の成果としての「提案」、「今後の取組」という流れが非常に分かり易かったです。
次に中身についてですが、よく言われる過疎高齢化や単身高齢者の「現状と課題」について、まず具体的な数字を明確に述べられた点が良かったと思います。特に印象に残ったのが2050年には佐伯市の人口はほぼ半減、しかも75歳以上の割合は相変わらず大きく、単身高齢者が多いことでした。しかし、この現状や今後の課題は、他の全国の地方都市に共通する普遍的な課題ですので、もし解決できるなら、全国の「先進事例」となり得る事業企画なので実に素晴らしいと感銘しました。
「考察」では、AIのリサーチから始まりハーバード大学80年間に及ぶ研究もありでしたが、成果は、健康で喜びに満ちた幸福な人生を送るには「友好的な人間関係を育むこと」ということでした。言われてみれば確かにそうだなと。どの国も共通だろうと思いました。そして、どんなに孤独の方でも生きていく上で「食」は必須ですので、『食で絆を育む』というのはとても良いアイデアだなと感心しました。
「事業提案」にある4つの魅力の仕組み(①健康食堂〔管理栄養士・社員食堂〕、②安さの仕組み〔もったいない食材活用・お手伝い割引〕③マッチング〔趣味:仲間募集・困りごと:支援〕④アイテムシェアリング〔車・自転車・工具,あげる・ほしい〕)についても、実に素晴らしい。例えば、「健康食堂」ということで、地元企業と社員食堂として提携するということは、本事業が経済的にも“持続可能”であると評価できます。また、“単身高齢者の幸せ”という一つの問題解決のスタイルでありながら、高齢者のみならず若者の単身世帯も含め“地域医療の向上対策”にもなりえると思いました。さらに、市民食堂で簡単な健康診断ができれば、地域医療のバージョンアップ拠点にもなりえる。また、「マッチング」についても、おじいちゃん、おばあちゃんは貴重な体験や知恵を持っている場合が多いので、例えば、伝統料理が得意なおばあちゃんを核とした伝統料理趣味の会に人が集まるだろうし、神楽の技を持つおじいちゃんを核に神楽グループができるかもしれない。つまり“地域文化喪失の防止対策”にもなり得る。つまり、地域の様々な地域課題を相乗効果的に問題解決していくことになる。まさに、「夢創造型」事業と言うことができると思います。
一般的に「問題解決型」事業だと、使命感のある人は直ぐに応えてくれるかもしれないですが、その後、その輪はなかなか広がらないことが多いのです。しかし、この事業は、楽しくワクワクする「夢創造型」なので、確実に輪が広がる事業と確信しました。
さて、グループに質問です。「今後の取組」の最初のアンケートの取組についてですが、単身の高齢者だけでなく、若者も対象に含むのでしょうか。【グループの返答:若者の単身世帯を含みます】了解。それでは、かなり具体的なアンケート項目案もしっかり作って、アンケート項目をバージョンアップするための「おため市民食堂」の実験を必ずしてくださいね。その時は、私も多少の寄付をして佐伯の地域貢献をしたいと思っています(笑)。
最後に、ぜひ佐伯市役所と一緒にスクラム組んで実施していただきたい。佐伯市の窓口としては高齢者福祉課なのか政策企画課になるのか、そのあたりのことも含めて、皆さんがまず佐伯市役所に訪れることから始めて、公務員の方々と一緒に知恵を出していかれると良いと思いました。“官・民連携事業”のスタートとしてくださいね。 ・・・以上です。

佐伯市長 田中利明氏:「城山アドベンチャーズ」~佐伯城址(城山)未来の活用について~

色々な提言をしていただきご苦労様でした。貴重な城山に関する各方面からの検討事項を頂き、なるほどな、という感想を持ちました。城山に関しては9月の定例会で一般質問もあり、時機に合った報告だったと感じました。
「佐伯城山の活用・保存に関する基本方針」は平成29年に作りましたが、平成30年には「佐伯城山整備計画」を策定し、計画に沿って城山を管理しています。台風などで登山道が荒れてしまうことや、城山の石垣等が見えないという市民の声もありまして、伐採・剪定計画を作りました。
さらに、令和5年には佐伯城跡が国の史跡指定を受け、文化財保護法に基づいた管理をしなくてはならない現状です。その意味で佐伯城跡の保存活用計画を令和7年度に策定予定です。策定委員会については既に植物学や自然環境などを含む幅広い分野の専門家に委嘱しており、史跡・自然環境に配慮しながら佐伯城跡の保存や活用の方針を決めていく流れとなっています。ですから、市民の皆さんには計画策定委員会の開催時に傍聴してもらい、パブリックコメントを出していただくなどして、市民の声を確実に保存活用計画に反映していきたいと考えています。
城山の保存にはかつて城山の木を一本たりとも切ってはいけないという意見もありましたが、これからは保護のみではなく、どう活用していくかという視点も必要です。
城山の管理については、都市計画課、教育委員会、観光・国際交流課など、それぞれがばらばらにやってはいけないと思います。一つのまとまったプロジェクトチームを作るなどしっかり城山の管理をすることが大事ですので、この点については十分検討していくつもりです。
自然環境教育についてですが、佐伯市はさいきオーガニックシティエコマイスター派遣制度があり、高齢者教室や学校等の依頼を受け、環境対策課がエコマイスターを講師として派遣し自然環境教育を実施しております。
ビジターセンターについては、三の丸は国指定エリアですので、建物を作るのは難しい現状です。こうした施設については今後検討していきたいと思います。
整備道については、自動車道を裏山から通して、国史跡区域でなければ作業を含めた整備道ができるのではという話は前からありましたが、まだ具体的な案に至っていません。
城山は地政学的にも歴史の中心地で、希少な価値を持った山であり、観光・歴史的活用など、様々な視点からとらえる必要があります。また、シビックプライドとも言える、佐伯市民の佐伯への愛着や誇りのシンボルとしての意義があると思います。さまざまな市民の意見を頂戴しながら、剪定・伐採については無用な伐採をしないように、ドローンで調査をするなどして、保護と活用のバランスを考えながらやっていきたい。
9月の定例会では剪定・伐採の予算を計上しました。史跡はもちろん、剪定・伐採後の景観やそこに住む生物たちにも配慮していきたいと思います。

 

佐伯市民大学学長 村上憲郎氏:「しゃべり場」プロジェクト~予算0円!で地域貢献~

素晴らしい発表をありがとうございました。世代間コミュニケーションは非常に大事なことで、昨今は年配の方の話を若い人が聞く機会があまりない状況です。市民食堂の発表にもありましたが、私が育ったころとは違って、年配の方と一緒に家族が住んでいる世帯が減っている中、若い人が年配の方の話を聞く機会を設けるという意味で大事なプロジェクトだと思います。
参加については、高校生以上となっていますが、幼稚園、小中学生も対象者にしても良いのではないでしょうか。目的に社会貢献を設定しているので、高校生以上を対象にしているとは思いますが、幼稚園生や小中学生が話を聞いて、何かの参考になるのではないかと思います。
ワールドカフェというひな形ですが、オープニングから始まり、第一、第二、第三ラウンドを経て全体セッションと、しっかりプランをされていますが、そのことを含めて、真面目過ぎるという印象です。真面目なのは良いけれど、しゃべり場に行って「良かった」「楽しかった」と思ってもらうのも大事なことではないでしょうか。ワイワイ、ガヤガヤ、雑談形式でやることもご考慮いただければと思います。
場所ですが、社会福祉協議会のふれあいサロンが百数十か所、高齢者福祉課の茶の間も数十か所あるので、そういった場所も活用してはいかがでしょうか。九州一広大な行政区をかかえた佐伯市ですから、佐伯の色々な地域から参加を求めるとなれば、一か所だけでなく、既存の施設・制度を利用して広大な佐伯市の色々な場所でしゃべり場を展開していただければと思います。そうして、「面白い」「楽しかった」と言えるようなしゃべり場を目指していただきたい。簡単ですが、私のコメントにさせていただきます。ありがとうございました。

 

東京大学名誉教授 味埜俊氏:「僻南のまほろばを歩く旅」プロジェクト

東京から参りました味埜でございます。私自身東大でサステナビリティ学という修士、博士課程を立ち上げた経験がありまして、そこの教育の核にしていたのがまさにこの市民講座で実施されているようなプロジェクトタイプの教育、演習です。英語のプログラムで、世界中からやってきた分野の異なる学生たちが一つの課題に対して働きかけ、何かを生み出していくことをやろうとすると、多様な見方が自然と集まる、そういう場をつくるというのが最大の目的でした。そこで何が生まれるかは、まさに実験をしているようなものです。
さて、私が担当の「僻南のまほろばを歩く旅」のプロジェクトのコメントですが、先ほど市長がコミットするような演説をされましたし、改めて私が付け加えるものはないと言ってもいいくらいです。事前に資料を頂いていたのでコメントを考えてきたのですが、発表を聞かせていただいてそれがほとんど役に立たないことに気が付きました。どういうことかと言いますと、佐伯という場に古道、歴史、自然があって、それを使った新しいハイキングコースをつくるというシンプルな提案なのか、というのが最初の印象でした。何かの課題に対して議論するために課題についての前置きがあるのかと思ったら、ドーンと古道の話が出てきて、佐伯にはすごい自然があるんだという主張がストレートに出てきたのです。なぜ「歩く道」なのだろうということが一番の疑問だったのですが、今日話を聞いてわかったことは、グループの皆さんが、色々なところを実際に歩いて「歩く道」を経験していて、この素晴らしさを何とか皆に感じてほしいという強い思いが自然に発露したものが今日の発表だということです。グイグイ情熱が押し寄せてきて、聞いているのが大変なくらいでした。
もう一つ私が思ったのは、inclusiveではないということです。発表の中でアドベンチャーツーリズムということばを使っておられますが、ある価値観を持つ人達には非常に強く働きかけ、そういう人たちがすごく気に入るだろうけど、皆が皆できるわけではない。それが悪いということではなく、むしろ色々な活動の多様性があってしかるべきですし、このプロジェクトはある特定の集団にターゲットを絞っているわけです。逆に言うと、世界中からそういうことに興味のある人を呼べるポテンシャルを持っている。皆が楽しめるinclusiveな発想をデザインすることも良いけれども、ターゲットを絞って世界中から来てくださいというのもとても素晴らしい事だと思います。
そして、草鞋(わらじ)で歩こうというの話がでてきました。私も山登りが好きで、若い頃は東京近辺の丹沢という山で草鞋を履いて散々沢登りをしていました。はっきり言って大変。けがをしたり破傷風にかかるリスクがありますし、丹沢だとヒルが出てきます。草鞋がだめというのではなく、リスク対策とケアをちゃんと考える必要があるだろうと思いました。
また、ブランド化が必要という事には全く同感です。どういう戦略でブランド化をするのか、「・・・歩く旅」というキーワードで良いのかどうか、やってみて少しずつ修正をかけていくなど、色々なことが必要なのでしょうが、ブランド化で世界中の人に知ってもらい、佐伯の人にも誇りに思ってもらえるようなキーワードを見つけることが大事だと思います。つまりは広報が必要だと思います。他のプロジェクトも同様ですが、特に若い人にどういう風に情報を流して参加してもらえるか、このプロジェクトはあまり心配ないかもしれませんが、他のプロジェクトではそれを考えないといけないでしょう。東京都知事選で石丸さんが想定外に多い票を取りましたが、街頭で話を聞いている人たちに動画を取って拡散してくださいと頼んだりしていたわけです。やはり、最初に若い人たちをどういう風に引き付けるかが大事で、一回ファンになってもらった若い人を使って広報をしてもらうのは凄く有効かなと。広報戦略は色々な人に聞いて進めていっていただきたい。このプロジェクトについてのコメントはここで終わりです。
全体の印象ですが、何点か言わせていただくと、一つは佐伯市という地域性を、個々の特性をどういう風に考えるか。色々な提案があった中で、例えば高齢化は日本共通の課題ですし、自然を利用したり、交流の場を持つのもどこでも必要なことです。ここで皆さんが考えられたことをどこか他の場所に持っていって、そこで実行するのも同じ手順できるのかもしれない。そういう要素と「佐伯ならではの事って何だろう」と、ここを意図的に考えるのが大事です。地域って一体何だろう。自然や資源を活かすのはもちろん必要ですが、例えば行政の仕組みや、どういった人のつながりが既にあるのか、など、色々なことが考えられるので、ここにある、佐伯ならではのものが一体何なのか、という発想でもう一度考えていただきたい。
もう一点は皆さんがすでにご指摘の点ですが、プロジェクトをどうやって実現していくのか、具体的に進めていくかというところが大事です。今日発表された方々が核になるにしても、それだけで実現できるわけではない。プロジェクトにかかわる人をどう増やしていくか、継続的に実施体制を維持していくかが重要です。話を伺って、行政が非常に強くコミットされている。そこは私はものすごく心強く思いました。
今日、ここにお招きいただき、半日間色々なお話を聞かせていただき、私自身非常に勉強になりました。佐伯という場所で、こんな素晴らしい活動が動いているということを私自身も心に留めて、色々なところで宣伝させていただければと思いました。今日は本当にありがとうございました。

 

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