2023年10月講座報告 【木材を使うだけでは、日本の山は守れない】

目次

豊富なのに活用されない日本の森林

2021年の全国の木材生産の産出額は2666億円。農業は8兆円で、そのうち卵だけで3000億円だから、日本の国土の65%が森林なのに、いかに日本の木材生産の価値が低いかわかるだろう。そして日本は外材を輸入しまくっている。なぜなら外材には関税がかかっていないからだ。つまり日本政府は自国林業を防衛していないのだ。

 

良質の木材を使わない日本人

ウッドショックは杉に関係ないはずなのに原木13000円/m3が18000円/m3にあがり、売り値が125000円/m3になった。今は原木価格が14000円/m3に戻ったのに売値は約90000円/m3。木材は相場で決まるが、本来自然は国が管理すべき。牛のヒレ・モモ肉に当たる上質のA材の売れ行きが悪く、ホルモン相当のB材の需要が高い。ゴミ同然のD材はバイオマス燃料に利用するが、FITでC材が購入可能になり、C材もバイオマスに使われる。樹齢70-80年の大径来が中丸太より安く売られている。小中丸太を使う集成材が増えているからだ。建築では横梁材の90%、柱の60%が輸入材。べニアは主に国産材。コーヒー生産国のブラジルがコーヒーを輸入しているようなもの。

 

今の家と昔の家

今の家は、安く、早く、今だけ建築が主流となり、低価格住宅に追われる。屋根が少なく、軒が短く、温熱コントロールはエアコンと24時間換気扇。外装はサイデング、内装はビニールクロスの石油製品。接着剤を使った集成材などの30年耐久建材が主流なので家の寿命も30年。短命住宅は解体が多くなり、産業廃棄物として山に埋めることになる。そしてA材が売れないのでB材を目指した50年サイクルの山つくりを国が指導する。ひび割れしても耐久性に問題はないのに、今は見かけを優先して石油を使って人工乾燥するが、その場合は中にひびが入って見えない。
昔の家は大工が適材適所で作っていた。曲がった木は無理に角材にせず、梁に使い、真っすぐな木は柱に、黒ジンは土台に、弱い木は束に利用し、天日乾燥した木材を使っていた。日本の伝統構法の技術が世界遺産にはなったが、国民的住宅の大工技術の継承で、建築文化を残すべき。手刻み大工がいなくなれば、木の家の修繕が難しくなる。手刻みの家は気候風土適応住宅。

 

木材流通の問題

現在の一般的木材流通は山⇒木材市場⇒製材所⇒人工乾燥窯⇒材木店⇒製品市場⇒材木店⇒工務店作業場。結果的に施主が払う木材価格が高くなる。これを昔のように山⇒製材所⇒工務店作業場とシンプルに戻せないか。佐伯でも自伐型林業を頑張っているところがあるが、自伐型林業と施主・工務店が手を結ぶ必要がある。

 

 

バイオマス発電の問題

家畜の排せつ物利用の発電とは違い、木質バイオマス発電は設備費が高く、FIT援助価格が高いので途中でやめれない。熱効率が悪く(薪ストーブだと3倍の高効率)、FITでD材からC材へ移行すれば、山の木が足らなくなる。ゴミ木材は今は救世主だが、10年後は自然破壊へと進む。

 

令和2年の人吉・球磨豪雨の教訓

崩壊現場の7割が林業地で、皆伐・大型林道が原因ではと報じている。植林しても15年は緑が少なく斜面崩壊対策にはならない。間伐伐採が理想。皆伐伐採は外国みたいに合理的というが、結局災害費で非合理。災害復旧費3800億円ダム建設を加えると1兆円。線状降水帯の恒常化により豪雨はまた来る。

 

山や木材問題より、国は総体の経済で考える

杉材の全国の生産リスト年間売り上げ(1位宮崎、2位大分、3位熊本、5位鹿児島)で見れば、山の問題は日本全国の問題ではなく、九州の問題。国はCLT製品の利用拡大で、10階建てを木造に推進。CLT製品は30万円。山には1万円。B材利用なので短期伐採50年計画。山の合理化で大型機械を山に入れ、山道は4Mに拡大。林業は大型機械のローンに追われる。50年サイクル植樹しても15年ははげ山。降水量が多くなり、斜面崩壊が多くなる。国全体の問題ではなく九州の問題なので無視される。

 

 

九州の山は自分たちで守る

伝統構法は山の木を考えた建築構法。杉の木の欠点(高含水率、曲がる、反る、ヒビが入る、大断面が取れない、縮む)を受け入れたのが伝統構法。そのためには大工の技術が必要。めざすは「3方良し」のシステム。つまり、山側は2割の高売り(変則寸法で玉切り)、施主側は安買い(特注寸法が無く全て同じ価格)、施工側は経費15%は確保(長物が使え継ぎ手が少ない)、設計側は自由寸法の設計が可能。
杉林は間引きしないと下草が生えないし、植物性プランクトンが川に流れない。自然循環が機能しない。間引きして放っておけば、広葉樹が生え、自然と下草が植わってくる。ただ家を建てる時、日本の木を使うだけで良いのだ。北欧の外材はシロアリを知らないのでタンニン成分を持たない。よって、外材は防腐剤による薬漬け。杉の木はタンニン成分が多い。木の香りは木にとって身を守る防腐剤なのだ。真っ直ぐな薬漬けの木を使って、メーカーの下手な大工に頼むのか。曲がる木を見定めて、適材適所に日本の木を使う技術の高い大工に頼むのか。良く考えて家を建てよう。

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