令和8年地元学の会 第2回講座 概要

第2回講座「食、人権、環境、開発を問い直す」
講師:印鑰智哉氏 /小山敬晴
開催日時:2月1日14時~
場所:佐伯東地区公民館
講座受講人数:59名

目次

始まり

辻信一さんによる第一回講座において、「食と農、種、大地の課題解決にこそ希望がある」と力説される中で、この分野の日本屈指の専門家として紹介いただいたのが印鑰智哉氏でした。OKシードプロジェクトの事務局長を務め、日本だけでなく世界の食の安全性の問題を追われています。共に登壇いただくのは、おおいた「いただきます!プロジェクト」にて種苗法についての問題点と大分県条例の制定を目指して活動をされている小山敬晴氏。今回講座では、食と農についてより臨場感をもって講座に臨んでもらえるように、受付後に下記の2つのアクティビティを用意しました。
①有機玄米おむすびのふるまい
青山地区の堅山農園さんが育てた有機玄米(JAS認定)を、米水津のなずなの塩で召し上がって頂きました。

ふるまい有機玄米おにぎり

②種の交換会
県内でシードバンク活動をされている「農園てとて」さんに来ていただき、自家採取の種の交換会を開きました。

“農園てとて”さん、大分大学小山ゼミによる種の交換会

どちらも受講生の皆さんには好評で、受講前の気持ちのアイドリングが始まっていたようです。

第1部:印鑰智哉氏による講座「食、人権、環境、開発を問い直す」

印鑰智哉氏

現在は“多重危機”気候危機、生物絶滅危機、社会危機が同時に進行している。気候危機の原因であるCO2、多くの人が車の燃料やエネルギー開発とか電力の話とこれらの原因の多くは土が失われていることにある。実は健康な土のCO2の貯蔵量は膨大。だが、現在の工業型農業(緑の革命)は、土のCO2貯蔵能力を著しく失ってしまう。例えば、空気が入り込めるほどのふかふかな土の団粒構造は根の先にある菌根菌糸がさらに根深く創り出している。本来の植物は作り出したエネルギーを土から土中の微生物に供給し、その対価として微生物から栄養素を頂くような共生が自然界の基本だった。そこに化学肥料を与えると、植物は大地にエネルギーを流さなくなり土中の微生物が育たなくなる。すると、植物は病気になり易くなり、それを改善するために今度は農薬が必要になってくる。デイビッドモンゴメリーの著書「土と内臓」で書いたように、微生物が環境維持に重要な役割をしているという点は土も生物の内臓も同じ構造をもっている。大量生産にまつわる化学肥料・農薬・遺伝子組み換えなどのテクノロジーと呼んでいるものは、環境の不具合を起こしていて、アレルギーをもつ人が増えているのは関係性がある。

これまでの慣行農法を逸脱すると、収量が下がってしまうと言われてきたが、「アグロエコロジー(農生態学)」という農法に触れ、これこそが解決策だと思えるようになってきた。

生態学の視点をきちんと農業に取り入れる方法であり、例えばメキシコのチナンパ農法と呼ばれる伝統農法などがある。この農法では実際に慣行農法より収量が多いことが確認されている。

ミゲル・アルティエリの活動から世界では2010年台前半にアグロエコロジーは広まってきたが、日本は2021年に緑の食糧システム戦略が決定された段階である。日本の有機農法は世界におけるパイオニアである一国であり大家の方々は本当に海外で尊敬されていて有機農法における世界のリーダーになりえたにも関わらず、実際にこうした有機農法に関係している人たちがあまりにも少ない。現在は韓国やフィリピンよりも有機農家の数が少ない。

また、日本は世界でトップクラスの遺伝子組み換え食品消費国であり、私たちの食卓には既に遺伝子組み換え食品が並んでいる。遺伝子組み換え食品は1996年に現れ夢の科学として人類の研究が進められてきたが、たった2種類の作物しか開発が進んでいない。一つは除草剤耐性(除草剤に対して強い)を持つ大豆や、害虫抵抗性(虫が食べたら虫が死んでしまうような特性を持つ)を持つトウモロコシなど。遺伝子組み換え食物を4-5年同じ田畑に植え続けると、その性質に対応するように進化した虫や雑草が生まれてくるようになる。この相乗効果でどんどん改悪している。アメリカではここ30年で急激に糖尿病患者と子供の発達の遅れが増えてきてて、その因果関係で疑われている。昔は遺伝子組み換え食品はよく報道されていたけれど、無くなったわけではなくて、ただ報道がされなくなっただけで現在も多く使われている。世界の傾向としては2015年ごろを境に遺伝子組み換え食品の生産量は増えてはいない。日本の消費量はむしろ上がってきてしまっている。30年前の日本は遺伝子組み換えのお米が栽培されようとしたときに全国の生協がそれに反対して何十万の署名を集めて中止にさせたことがある。それで、結局アジアには入ってこなかった。でも、その状況が変わってしまうかもしれない。

また、世界では遺伝子組み換えが使えなくなってきたということで、ゲノム編集という技法が出てきた。ゲノム編集では編集した遺伝子を入れるんだけれども、最終的には戻し交配といってその編集した遺伝子を取ってしまうので、遺伝子組み換えとしては扱われていない。例えば、ゲノム編集したマダイが開発されていて、食べられる部分が大きくなるように筋肉ムキムキに改良されたマダイ、過剰な筋肉のせいで背骨が曲がったり尻尾が小さくなってしまったりしている。トマトでは、GABAを止める遺伝子を壊したGABAだらけのトマトが生産・販売されていたりもする。また、ゲノム編集同様に植物の特定の遺伝子を壊す技術としては、加速器の技術などを使った重子ビームによって遺伝子を破壊して新しい種を作り出そうという動きもある。農業も人工衛星とIT技術を使った農法が日本の水田の2割近くも進んできている。昔は種を支配するものが世界を支配するなどと言っていたが、現在は情報を支配するものが世界を支配するようになってきた。日本では改正種苗法についての議論もあり、登録品種の25年の縛りをもう10年延ばそうという計画もある。そして種と情報を中央集権的に一括管理するようになる。すると、将来的には大分県産の種というものがなくなる可能性がある。

これらの工業型農業をアグロエコエロジーに変えていくことがこれからの鍵になっていくく。工業型農業が壊したものは環境だけでなく、人間関係も。工業型農業は女性をはじく仕組みになってしまっていたが、アグロエコロジーでは女性がどんどん社会に参画してくるようになる。それらの機運は子どもたちにも広がっていく。また日本では有機農業は金持ちのためのものという認識があるが、ブラジルなどでは貧困者のための有機農業というものがどんどん広がっている。連待キッチンと呼ばれる取り組みは農家の人たちが主要都市に食材を持ち寄り、中産階級の人たちの寄付で無償の食事をホームレスの人に提供する動きが出てきている。コロナが終わった今、ブラジルの国の政策としてやっている。今国連は日本を飢餓国の一つとして認めるようになった。だから日本もこうした取り組みをまねて、有機農業を進めていく必要を感じている。

第2部:小山敬晴氏

小山敬晴氏

大分大学の経済学部で、専門として労働法を扱う。基でいえば農業もやっていないし種の事も専門ではないが、そこに至る背景を少し。東京生まれで30年ほどコンクリートがたくさんあるような場所で過ごし、縁があって大分大学で働くようになり10年ほど経つ。大分の住みやすさ過ごしやすさを強く感じている。思い返すと、小さいころに家族旅行で行った自然豊かな場所での原体験が、活動の原動力になっている。種に関わりだしたきっかけではあるが、働く人のための法律であるはずの労働法、にも関わらず農家の方というのは基本的にはこの法律の対象外となっている。ここに危機感を感じていること。また、大分に来て知り会った農家の方に頂いた野菜がとっても美味しかった。有機や自然農だからというのが先にあるのではなくて、美味しいと感じたこと。こうしたものが直接買えるなんて豊かだなと、そして今日もいらして頂いている”農園てとて”さんの種の交換会にゼミで参加したり、米作りに参加したりと研究と教育の両面で農業や種の勉強をしている。

■種に関する取り組み

2017年の種子法廃止(多国籍企業による海外産の種子の販売の自由化)により、これまで法律で守ってきた主要穀物の種が守られない状態になった。そこで各都道府県の取り組みで条例で種を守る“種子条例”制定の流れが活発化してきており、現在は35県が制定している。これを大分県でも作りたい、ということで、おおいた「いただきます!プロジェクト」という団体を2020年に立ち上げた。まだ大分県での条例制定には至っていないが、この会場にいる人たちの尽力もあり大分県の18市町村のうち10市町の各市議会から県に対しての意見書を出してもらった。2022年の9月には佐伯市では有志の方が中心に請願活動を経て佐伯市議会からも意見書を提出してもらっている。また、国レベルでは元農水大臣の山田正幸さんの声掛けで、種を守る法律を廃止したことは、憲法で定める生存権に違反しているということで、裁判を起こしたという事でまさに私は法律を専門にしているので弁護団会議に参加した。非常に残念ながら、昨年の10-11月に最高裁で負けてしまった。山田先生はこんなことで負けていられないと、まだまだやるんだというということで引き続き活動に賛同している。この活動は山田先生のブログなども見て、皆さんにも興味をもってほしい。

■どうして私が種の問題に関わるようになったか

日本の法律が変わるとき(法改正)、そのきっかけは日本の内部的に決まるだけではなく、アメリカから毎年出てくる年次要望改革書というものに「〇〇の法律が不都合だから変えてほしい」といった内容に基づいて法改正が行われる場合がある。労働法についても同様で、多国籍企業の経済合理性のもとに法律が変わることがある。SDGsにあるように、誰一人取り残さない社会を創るという目標が始まりにも関わらず、そのために経済を活性化させることが一番だとなって、そうすると効率のよい働き方、企業がどれだけ利益を上げるために労働者を長時間働かせれるかみたいな所に意識が向くので、本来は労働者の人権を守ることが最初に来るはずなのに、企業が労働者を働かせるために最低限の労働者の健康を守るにはどうしたらいいかのようなベクトルが逆方向に向かっている。また教育においても、企業社会で優秀に働ける、すぐに即戦力で働ける人を育てるにはどうしたらいいかみたいなことが教育現場で必要とされる。効率化社会という一つの軸に個人を合わせていかなければいけない。農業の現場では、大量の食物生産が是とされ、そのために化学肥料や農薬を多量に使用し、そのために使い勝手がいい優秀な種が必要だという構図になっている。

労働のあり方を考えると、その職場の問題は家庭の問題の元となったり、そして家庭環境によって人々の精神の問題を引き起こしたりする。また、精神衛生や健康問題について考えることの根っこにはやはり食や種の問題が関わっている。そもそも、優生思想のような単一指標での優れているものだけが価値があるんだという考え方がいまだに主流になってることに危機感がある。自分のことをちゃんと自分で決めていくことができる、明日何を食べようとかなにを植えようとかこれが自分の一番の楽しみであり、これをうまく何か法律の言葉に載せて訴えていきたい。

■ローカリゼーションとの関わり方

ローカリゼーションという概念に触れると、とってもよい印象がありこれぞ正義だと思ってしまいがちなところに危険性がある。例えばグローバリゼーションに対抗する考えがローカリゼーションであり多様なローカルが存在するはずが、理想的なローカルという理想こそが正義だと考えると排他的であり教条主義的になってしまう。また、オーガニックの観点から見るとゲノム編集の食材はは絶対食べてはいけないと強硬的な姿勢になってしまうこともあり、この点も視点の多様性や対話を失わせる。また、対話の姿勢と言いつつ、一方的な価値観や義務感の押し付けになっているケースもある。今日の講座にしても、講師の意見だけが最も正しいという形で捉えられると、そこに反する部分で対立が生まれてしまう。かつて日本の大学内においても、思想が合わない人を集団リンチするようなひどい事件があった、みんな正義感があっていいことをしようと思っていたにも関わらず。そういう閉鎖的になってしまわないように、関りの場と対話の場を持つことが大事である。食や音楽や芸術、そういう楽しさや美的センスとか、そういうものを共感する場をつくっていくことを大切にしつつ、個人レベルでどんなそれぞれどんな生き方をしたいのかそういうものを日常の生活の中から取り組みを重ねて欲しい。

車座座談会

講座の後は、講師のお二人と受講生が車座になっての意見交換&質疑応答会。こちらも盛会でした。

講座の終了後には会場にとても心地よい熱気があふれていました。
佐伯を離れられた印鑰先生からは講座後にこのようなメッセージを頂戴しました。

「佐伯市が持っている可能性を考えると身震いします。日本の他の地域にはない、希有な条件を持っていると思います。だから佐伯市が成功して、他の地域の希望になることがとても大事だと思います。

大変なことはたくさんあると思いますが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。」

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