第一回講座:プロローグ:『地域力の再発見』から柳田国男と南方熊楠の内発的発展論を紐解く【さいき7つの創生:1,3,4,6】
日時:2021年12月26日(日曜)午後3時~5時
会場:佐伯市東地区公民館集会室
講師:あまべ文化研究所代表 岩佐礼子 (講座コーディネータ兼講師)
この3年間の講座構成の通底にある内発的発展論とは何か、ということを二部構成で紹介した。
第一部は社会学者の鶴見和子が、その生涯を通して、家族ぐるみの付き合いであった柳田国男との関係性、米国留学で学んだ、国に発展の優劣をつける西欧近代化論への疑問、水俣病の調査で出会った患者さんたちとの出会い、出版社からの依頼で本を書くことになった南方熊楠との出会い、1972年頃からの世界的な環境問題の提起などを背景に内発的発展論が熟成していった経緯が説明され、柳田国男の「漂泊と定住」や「ハレとケ」といった民俗学的な要素を通して、柳田が被支配側の常民にこそ社会を動かしていく力があると考えていたことを学んだ。
一方、博学な南方熊楠は14年間の海外生活で、必然性しか見ない西欧的な科学観である因果律に疑問を持ち、仏教の「縁起」という偶然性を加えた概念の方が優れていると考えた。そして仏教の曼荼羅に「萃点(すいてん)」という様々な因果が交差する点を加えた「南方曼荼羅」を描いた。鶴見はそこから、偶然の出会いが人生の方向を変え、社会運動や社会変動を生み出すことがあると考えた。
第二部は、「暗黙知」と「創発」の説明から始まった。
学校教育や本などで学ぶ知識は形式知で、頭で記憶する知識だが、人間は体に覚えこませる方法知としての「暗黙知」を持っている。
失敗を繰り返しながら体で獲得する「暗黙知」の例に自転車の運転がある。それは、道具や自分の体が一体化する状態を作り出す。それが音楽や工芸などの表現世界になると、モノの次元を超えて芸術という新たな次元が「創発」するのだす。「創発」はもともと生物学用語で、単なるたんぱく質の組み合わせから偶然、生命という高次元の全く新しいものが生まれる現象を指す。経験から生まれる直観もその産物だ。
ある意味、人はその生涯において唯一無二の暗黙知の能力を発現する可能性を持ち、それを生かすも殺すも、その人の創造的努力次第だということなのだ。それは、社会の発展だけでなく、伝統を再創造する人間の創造性を重視する内発的発展論にもかかわってくる。皆さんが暮らす地域では、どういった内発的発展がありえるのか、どういった自然資源や伝統や人々の創造性を組み合わせて地域づくりを進めていくのか、これからの3年間、全国から一時漂泊してくる講師の方々と共にじっくり考えてほしい。
コメント